19世紀から20世紀にかけてイギリスの統治下にあったミャンマーでは、その時代に建てられた建築物を各地で見ることができます。特に、当時から政治的・商業的な中心都市だったヤンゴンには現在でも貴重な建物が数多く残っているのが特徴です。
東南アジアのコロニアル建築というと、一般にベトナムのハノイやホーチミンなどがよく知られていますが、実は規模や数から言えばヤンゴンはそれら都市に勝るとも劣らないほど充実しています。
ただ、近隣他国の例にもれず、ヤンゴンでもここ10年ほどの急激な経済発展によって、これら歴史的に価値のある建物が徐々に姿を消しつつあります。こういった状況を危惧した地元の建築家や歴史学者などの有志が集まり、2012年に設立されたのがヤンゴン・ヘリテージ・トラスト(Yangon Heritage Trust、以下YHT)という組織。
公式サイト: Yangon Heritage Trust
今回自分が参加したウォーキングツアーはこのYHTが催行しているもので、参加費用は1人30ドル。決して安くはありませんが、一部はその保全・管理費用に充てられるということ。ツアーは午前、午後の部に分かれ、それぞれ2~3時間を掛けてダウンタウンエリアを巡るものとなっています。
申し込みはオンラインまたはYHTの事務所で。事務所の場所はストランドロードからもほど近いパンソダンストリート沿い。
ツアー出発もここからとなります。
事務所内は小さなギャラリースペースが設けられていて、映画「ビルマの竪琴」でも描かれていた日本兵が寝釈迦仏を眺めている写真なども飾られていました。
癖のない非常にわかりやすい英語を話し、知識も豊富。
この日の参加者はイギリス人3名、アメリカ人2名、日本人1名(自分)の計6名。
かつてフランス領だったベトナム、ラオス、カンボジアに残る建物の様式はフレンチコロニアルと呼ばれますが、ミャンマーの場合はイギリスということで、一般的にはブリティッシュコロニアル様式と呼ばれています。
繊細で優美なフレンチコロニアル様式の建物に対して、こちらはどちらかというと重厚で威厳のある造りとなっているのが印象的。
1930年以降になると当時世界的に流行していたアールデコ様式の建物がヤンゴンにも登場。
上記写真の旧チャータード銀行は直線的な意匠と建物上部のポールが特徴。1941年築。
一方、ダウンタウンエリアには19世紀中頃から20世紀初頭にかけて造られたイスラム、ヒンドゥー、仏教の各寺院も点在していて、当時のヤンゴンが多様性に富んだ街であったことがよくわかります。
YHTは保存活動の一環として、ヤンゴンの歴史的建造物にブルー・プラーク(Blue Plaque)と呼ばれる青いプレートを取り付けるプロジェクトも行なっています。
これはイギリスの制度を模したもので、2017年4月現在その数は16か所。全リストは以下で確認することができます。
Blue Plaques Project | Yangon Heritage Trust
この日のツアーはボージョーアウンサンマーケットで終了・解散。すぐ東側には高級ホテルのペニンシュラを核とした大型複合施設が出来る予定。既に建設工事も始まっていました。
ツアー中は時折ユーモアを挟みながらもガイドの説明は真摯かつ丁寧。彼の言葉の端端からは、この街に現存している貴重な建築物を今後もできるだけ多く保存していくんだという強い意志を感じました。
トリップアドバイザーによる口コミでも高評価を得ているこのツアーですが、残念ながらこ2017年8月までは一旦休止中(プライベートツアーは可)。再開は9月2日とのことです。それ以降ヤンゴンに観光で訪れる方は、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか。
Walk with Yangon Heritage Trust
最後に、ヤンゴンの建築物について更に詳しく知りたい方には、Architectural Guide Yangonという本をおすすめします。全400ページオールカラー、巻末には詳細な地図付き。
値は張りますが、コロニアル建築を中心にパゴダから近代建築まで市内の主要な建物がほぼ網羅されているため、ヤンゴンにおける建築様式の変遷を体系的に学ぶのにはもってこいの書籍です。