Suvarnabhumiがスワンナプームになる理由

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バンコクの空の玄関口・スワンナプーム国際空港があるエリアは、かつてノーングーハオ(コブラ沼)というあまりありがたくない地名で呼ばれていたのを覚えている方も多いと思います。

開港にあたって、ノーングーハオ空港ではイメージが悪いということで仏典に登場する理想の地からとった「スワンナプーム」という名称を採用。スワン(黄金)+プーム(土地)で「黄金の土地」。コブラ沼とは大違いですね。

ところでこの空港、英語の綴りを見るとSuvarnabhumi International Airportと表記されています。

スワンナプーム国際空港

普通に考えれば「スヴァーナブーミ」とでも発音しそうなのに、なんでこれで「スワンナプーム」と読むのか不思議に思ったことはありませんか?

日本語の発音が間違っている?いえいえ、タイ人もちゃんとスワンナプームと発音しています。ではなぜアルファベット表記は、こんな変な綴りになっているのでしょう?

実はこのスワンナプームという単語はインドなどで使われていたサンスクリット語由来の言葉で、スヴァーナブーミのほうがよりオリジナルに近い発音です。

タイ語はサンスクリット語やパーリ語からの借用語が非常に多いのですが、これらをタイ語として取り込む際、本来のタイ語に無い発音はなるべく近い音で代用するしかありませんでした。

Suvarnabhumiのうち、”var”と”bhumi”はタイ語の音には無いもので、これをそれぞれ”wa”、”phum”に置き換えています。これによって、インドでは「スヴァーナブーミ」だったものが、タイに入って「スワンナプーム」という発音に変化しました。

一方、タイでサンスクリット・パーリ語由来の言葉をローマ字表記する場合は、タイ語の発音に関わらず、本来の表記をとるのが通例です。そのため、タイ語の発音とローマ字表記とが異なってくるという現象が起きることになります。

サンスクリット語の流れを汲むヒンディー語の綴り(सुवर्णभूमि)では、きちんと元のSuvarnabhumiという音が受け継がれています。また、タイ語(สุวรรณภูมิ)でも表記上は語末の母音”i”が残されていて、このあたりに苦心の程が伺えます。

もうひとつ例をあげてみます。

日本でもファンの多いタイのビールに、シンハ(シンハー)というブランドがありますね。ラベルを見るとSINGHAと書かれています。

タイのビール
右がシンハ、左はチャーン(象)ブランド。

しかし当のタイ人たちはこれをシンハとは呼ばず、ビア・シンと発音します(「ビア」はビールのことです)。

タイ語では「シン」、ローマ字表記では「シンハ」。スワンナプームの時と同様に、両者に違いが見られます。

これもやはりサンスクリット語由来の言葉で、シンハとは「ライオン」の意(ラベルにも描かれていますね)。シンガポールの「シンガ」やスリランカのシンハラ人、また日本語の獅子(しし)なども語源は同じです。

タイ語ではสิงห์と表記し、最後に発音はしないものの”h”に相当するタイ文字を付け加え、原語との整合性を取ろうとしています。

タイ語の綴り

こういった例はなにも古代・中世の借用語に限った話ではなく、現代の外来語でも同様に見られます。

日本の自動車・オートバイメーカーのスズキ(SUZUKI)はタイでも人気ですが、タイ語には”z”の音を表す文字はありません。そのため、仕方無くซูซูกิ(すすき)と表記・発音されています。また、いすゞ自動車(ISUZU)も”zu”を”su”に置き換え、อีซูซุ(いすす)になっています(細かく言うと最初の「す」は長めに、2番目の「す」は短めに発音)。

英語でも同じで、例えばvalentine。タイ語にはvaの音は無いため、waで代用します。また、語末の発音[tain]はタイ語の音韻体系に無いので[tai]のみの音となっています。そのため、タイ人の発音を聞くと「ワレンタイ」と言っているように聞こえます。タイ語で書くとวาเลนไทน์。最後に”n”にあたる文字を書き加え、その上で、シンハのときと同様に黙字符号カランを付け、原語の綴りに近づけようとしています。

このように、音韻体系の違いからタイの外来語は不規則な表記となることがしばしばです。文字も普段あまり使用されない特殊なものが用いられたりするなど、タイ語学習者にとっては覚えるのに苦労する単語が多いですね。

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スワンナプーム国際空港

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