マレーシア・クアラルンプール~シンガポール間で計画されている高速鉄道(High Speed Rail, HSR)ですが、先日、シンガポール側の始点にして唯一の駅をジュロン・イースト地区に造ることが明らかにされています。
細かく言うと、MRTジュロン・イースト駅西側のエリアで、現在ジュロンカントリークラブ(Jurong Country Club)となっている場所が有力なようです。駅開発に伴い、周辺にはホテル、ショッピングスポット、エンターテイメント施設、オフィスなどを整備するとの報道もなされています(関連記事)。
一方、マレーシア側の始発駅はクアラルンプール南部のバンダル・マレーシア(Bandar malaysia)と呼ばれるエリアで、現在使用されていないスンガイベシ空港のある辺りとなるとのこと。
また今回、当初2020年とされていたHSR開業時期を先送りすることも発表。新たなスケジュールは今年末に決定されるものの、2025年~2030年というのが現実的なところではないかと言われています。
このプロジェクトには総額で400億リンギット(1兆3千億円)もの費用が掛かるということで、早ければ来年中にも予定されている国際競争入札に備え、日本をはじめとした各国間のアピール合戦が一層激しくなっていくことは間違いないでしょうね。
HSRの詳細ですが、シンガポール~クアラルプール間の約340kmをおよそ90分で結ぶ計画で、これは台湾新幹線の台北~左営までとほぼ同じ距離。多国間にまたがる高速鉄道はイギリスとヨーロッパ大陸各都市を結んでいるユーロスターなどがありますが、アジアではもちろんこれが初めてです。
駅は、マレーシア7ヶ所、シンガポール1ヶ所の計8か所に設置される予定。
- クアラルンプール (Kuala Lumpur)
- プトラジャヤ (Putrajaya)
- スレンバン (Seremban)
- アイルケロー (Ayer Keroh)
- ムアル (Muar)
- バトゥ・パハ (Batu Pahat)
- ヌサジャヤ (Nusajaya)
- シンガポール (Singapore)
シンガポール航空当局のデータによると、現在シンガポールからクアラルンプールまで飛行機を使い移動している人は1日当たりおよそ6,000人だそうです(関連記事)。飛行機の場合、所要時間は約1時間とHSRより短いですが、空港へのアクセス時間やチェックインなどの手間を考えると、高速鉄道を使おうという人もかなり多いのではないでしょうか。
気になるHSRの運賃ですが、マレーシア公共交通委員会の関係者は、利用者を増やすためにも片道200リンギット(現在のレートで約6,700円)以下にするべきと発言しています(関連記事)。
実際にこの料金で提供できるのかどうか疑問もありますが、先行している台湾や韓国の例を見ても、高速鉄道開業後は国内線が島嶼部などの一部路線を除いて大幅に減っていますし、KL~シンガポール間の航空路線がHSRにかなり影響を受けることは避けられないでしょうね(関連記事)。なお、現在、同区間にはLCC4社を含む10社近い航空会社が路線を開設しています。
東南アジアは世界で最も格安航空会社の比率が高いエリアですが、LCCがこれだけ勢力を拡大できた要因の一つに、域内で競合する高速鉄道網が皆無だったということも大きいでしょうね。
日本の場合、航空会社は新幹線との争いがあり、一般に新幹線の所要時間が4時間を超えると利用者が飛行機に流れると言われています。一方、通常の鉄道網ですら貧弱な東南アジアでは、地上移動はバスが主流で、こと「時間」という要素に限れば航空会社は敵無しの状態でした。
ただ、そういった状況も今後は徐々に変わっていきそうです。
今回取り上げたKL~シンガポール以外でも、例えばタイではバンコク~チェンマイ間に日本の新幹線技術を用いた高速鉄道を敷設することがほぼ確実になっていますし(関連記事)、その他インドネシアやベトナムでも高速鉄道計画が推進されています。
将来は東南アジアでも日本と同様に、飛行機と鉄道によるシェア獲得争いが起こる時代がやってくるのかもしれませんね。