前編から続く。
チャイントンの街中の白壁や木造の古い家並みは美しく、静寂としています。とりわけ乾季のこの時期(12月)は、早朝になると街一面に霧が立ち込め、雰囲気のある街並と相まって非常に幻想的な光景。
海から遠く離れた内陸の地という場所柄、海産物はほとんど見かけませんでしたが、街中にはタイ・ヤイ料理(シャン料理)をはじめ、ビルマ、中国、タイなどの各国料理を出す店がいくつかあります。
タイと違って米はジャポニカ種が多いため日本人の我々には馴染みやすく、どの店に入っても期待を裏切られることはほとんどありません。
街中での交通手段は主にバイク。車の数は極端に少なくタクシーもなかったため、我々観光客も移動にはバイクタクシーを使うのが一般的でした。近い所で70~100チャット(当時のレートで7~10バーツ)とタイの田舎と同程度。
ハリーズゲストハウスでガイドを手配してもらい、日帰りトレッキングに出かけました。出発前に街中で食べ物、菓子、薬を購入。食べ物は自分たちの昼食に、菓子と薬はこれから会う少数民族にあげるため。
澄んだ空気の中を歩いていると、聞こえて来るのは、鳥のさえずりや、風がそよいで木の葉を揺らす音だけ。周囲には見事な棚田が広がっています。
トレッキングといってもチャイントンの街自体がすでに標高が高いため、それほど山を登る必要もありません。周囲にはエン族、ワ族、アカ族、パラウン族、ラフ族などの集落が点在。
エン族の集落。お歯黒の風習が残っている。
ガイドが薬の服用方法を説明し、それを熱心に聞くエン族の人たち。
観光客慣れしていない素朴な少数民族との出合いはこの時の旅行の中でも特に印象深いものでした。
エン族はこの地域では一番標高の高い不便な土地に住んでいます。それが、他民族との争いを避けるためだったのか、あるいは争いに敗れた結果なのかはわかりませんでしたが。
男たちの姿が全然見えないなと思っていたら裏庭で太鼓を作っている最中でした。
エン族の集落を後にし、見晴らしの良い場所で昼食。おこわ、発酵ソーセージ、豚の脳みその煮凝り、豚の皮を揚げたものなど。
次に訪れた集落の人たちは比較的現代的な生活を送っていて、タイの田舎あたりとも大差ない感じ。
少数民族は各集落ごとに信仰している宗教が異なり、今回訪問したケースでは精霊信仰(アニミズム)、仏教(上座部仏教)、キリスト教(カトリック)と3タイプに分かれていました。
仏教徒が多い村ではこのような仏像が。
途中、小学校にも立ち寄ることに。
子供たち。
教室はひとつだけ。小さい子から大きな子まで一緒になって勉強していました。
アカ族の村で。
狩猟用の銃を持つラフ族の男性。
トレッキング終了後、郊外の温泉にも行きました。
街から車で十分ほど走ると、田んぼの真ん中から湯気が幾つも登っているのが見えてきます。近づくと、硫黄泉独特の卵の腐ったような匂いが充満。
温泉施設は結構立派。
タチレクまで帰りは空路を利用しようと、市内にあるヤンゴン航空(Yangon Airways)のオフィスへ。
ヤンゴン航空のオフィス。
この時は「出発前日にならないと実際に飛ぶかどうかわからない」と言われ、結局出直し。翌日、何とか航空券を入手。
帰りの機内の窓からはチャイントンへ来る時に通ってきた細々とした土の道路が、木々で覆われた山肌に「しわ」のように延々と続いているのが見えました。
行きに12時間かかった道程を、帰りは僅か20分のフライトでタチレクの街に到着。
タチレク空港。
当時旅行中に書いていたノートを見ると、以下のように記してありました。
今回のチェントン滞在中、外国人は数人しか見かけなかった。近い将来、中国とビルマの国境が外国人にも解放され、またビルマ国内も自由に行き来することができるようになれば状況は一変することだろう。道路も改善され中国・ビルマ・タイを結ぶ国際ハイウェイもできるかもしれない。チェントン空港では国際線に備えて、滑走路の延長工事をやるということも聞いた。それらがいつになるのかは知らないが、それまでは緑の山々に囲まれた、この静かで美しい古都はひっそり佇んでいることだろう。
あれから17年が経ちますが、現状はどうでしょう?
国境は解放され道路状況も改善されたものの、それ以外は実現していません。外国人旅行者がチャイントンから他州へ陸路移動することも禁じられたままです。ここ数年のヤンゴンやマンダレーなどの発展具合に比べると、チャイントンをはじめとしたシャン州はさほど変化していないようにも感じます。
これには長期間にわたって中央政府と内戦状態だったこの地域に対する政府側の思惑も透けて見えますし、スーチー政権下でも状況は大きくは変わらないのではないでしょうか。
逆に考えれば、チャイントンを訪れる観光客は未だ少なく、その不便さゆえに素朴なままの姿を見ることができると言えるのかしれません。
タチレクとメーサイの国境。