台湾のドキュメンタリー映画「湾生回家」を見てきました

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先日、岩波ホールで「湾生回家」という台湾のドキュメンタリー映画を見てきました。

岩波ホールで上映中の湾生回家
岩波ホールで上映中

湾生というのは、「台湾生まれ」ということなのでしょうが、特に、戦前・戦中における日本統治下の台湾で生まれた日本人を指してこう呼ぶのだそうです。

公式サイト湾生回家

日本が敗戦したことで、当時20万人もいたと言われる湾生たちの多くは自身の故郷である台湾を離れざるを得ませんでした。

この映画はこれら湾生たちが台湾へ里帰り(回家)し、現地の人々と交流する様子を中心に記録していくのですが、一方で、やはり自分の意志とは無関係に台湾に置いて行かれた湾生にも焦点を当て、彼女の子供や孫たちがルーツである日本を訪れる場面も丁寧に描いています。

湾生回家のパンフレット

個人の力ではどうすることもできない大きな歴史のうねりの中に放り込まれた湾生たちのその後の人生は、間違いなく過酷で苦労の堪えないものでした。

しかし、スクリーンに映し出される花蓮の美しい自然や快活とした湾生たちの気質、そして時折挿入されるユーモラスなシーンなどがその深刻さを和らげ、鑑賞後は涙だけでなくどこかほんわかとした気持ちさえ感じる作品となっています。

これは台湾という土地そのものが持つ魅力に加え、湾生たちの心情を理解し温かみのある視点で撮影した黄銘正(ホァン・ミンチェン)監督の力量によるところも大きいのでしょう。

黄銘正監督

終戦と共に故郷が別の国となったという経験を持つ湾生たちにとって、国籍とは?、あるいは、自分は何者であるのか?、という問いは戦後70年を経た今でも常に彼らに付きまとっています。

アイデンティティーの不確実さという問題は、とかく中国との距離・関係性という相対的な尺度によってのみ語られることが多い台湾の置かれた現状とも重ね合わせることができますし、まさにその点において、この作品が多くの台湾人の心にも響いた作品となったのではないかと思います。

湾生回家

今のところ都内では岩波ホールのみの単館上映となっていますが、今後は全国各地でも上映が拡大されていくようです。

湾生回家 – 劇場情報

掛け値なしで上質なドキュメンタリー映画ですので、近くの町の映画館で公開される際にはぜひご覧になってみて下さい。