ペナン・ジョージタウンのショップハウスに見る建築様式の変遷

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ペナン・ジョージタウンのショップハウス

世界文化遺産にも指定されているマレーシア・ペナン島のジョージタウンには、ショップハウス(Shophouse)と呼ばれる店舗と住居を兼ねた2~3階建ての伝統的な建築物が数多く残っています(関連記事)。

同じく海峡植民地として栄えたマラッカやシンガポールをはじめ、東南アジア各都市ではおなじみの建物ですが、今回はここジョージタウンを例にとり、時代経過と共に変化したショップハウスの特にファサード(正面デザイン)について、代表的な建築様式を年代を追って紹介したいと思います。

中国華南折衷様式 1840年~1910年

当地へ移民としてやってきた華人たちの出身地である中国・華南地方の建物の影響を色濃く残したスタイル。

ショップハウス 華南折衷様式

2階建てで、目立った装飾のない非常にシンプルなファサードが特徴。全体に階高は低く、木枠にはよろい戸あるいは羽目板が使用されています。

100年以上続くショップハウス建築の基礎となったスタイルで、シンメトリーなファサード構造や1階部分の中国式通気孔デザインなどは後の様式にも受け継がれています。

初期海峡植民地折衷様式 1890年~1920年

ヨーロッパの影響を受けはじめ、華南様式とのハイブリッド化が進んだスタイル。

ショップハウス 初期海峡植民地折衷様式

建築技術が進歩したことで、階高が高くなり、開口部も大きくなったのが目に付きます。特に2階、3階部分の窓は両開きで床面からとられるフランス窓となり、建物内の通気・採光という面で大きく改善されています。

欄間の開口部にはフラットアーチが多く用いられ、アーチ中央部には楔石がデザインとして採り入れられているのも特徴。一方で、柱には目立った装飾はなくシンプルなままです。

後期海峡植民地折衷様式 1910年~1950年

ファサード全面に装飾が施された、ショップハウスの中でも最も華美なスタイル。

ショップハウス 後期海峡植民地折衷様式

建築技術の更なる発展によってデザインの自由度が増し、壁の面積は最小限になっています。柱部分に化粧漆喰を使った立体的な装飾が施されているのも大きな特徴です。

装飾には、花などヨーロッパや中国の伝統的なモチーフを用いるのが一般的で、カラフルなセラミックタイルも好んで使用されたようです。

アールデコ様式 1930年~1970年

それまでの豪華なファサードから一転し、シンプルでバランスを重視したスタイル。

ショップハウス アールデコ様式

建物中央上部にはこの様式を特徴付ける、ポールのような突起物がデザインされています。

柱もフラットで簡素になり、全体に直線的な意匠が目立ちます。この時代になると、金属製のフレームやパネルドアなど現代建築でもポピュラーな建材が使用されるようになってきます。

最後に

実は、上で紹介した2つの建物は下記のように隣り合っているのですが、並べて比べるとその建築様式の違いがよりはっきりするのではないかと思います。

ペナン・ジョージタウンのショップハウス
左が後期海峡植民地折衷様式、右がアールデコ様式。

ジョージタウンを訪れた際には、通りの両側に建ち並ぶこれらショップハウスを見比べながらそぞろ歩いてみてはいかがでしょうか。

※ショップハウスの各様式の名称については定まったものがまだないようなので、今回はペナン観光局ペナンヘリテージトラストPenang Travel Tipsなどの表記を参考に、当方が和訳したものを使用しました。