東南アジアで使われている文字のうち、タイ文字、ラオス文字(ラーオ文字)、クメール文字、ビルマ文字などはいずれも起源が古代インドのブラーフミー文字にあると言われています。
これら文字の共通点としては、表音文字である、単語ごとに分かち書きをしない、子音の上下左右に母音が配置される、などを挙げることができます。
各文字はそれぞれの地域で長い時を経て変化を遂げた結果、現在その様相は異なっていますが、分岐した年代が比較的遅かったと考えられるタイ文字とラオス文字については今でもかなり似通った文字を使用しています。
そのため、タイ語を読むことができればラオス語はある程度読解可能ですし、その逆も同じことが言えます。
ラオス語をタイ語と比較した場合、大きな特徴は文字と音のより厳格な一致にあり、タイ語ではサンスクリットをはじめとした借用語を中心に文字と発音とが整合しないケースが散見されますが、ラオス語では音通りに文字を表記するのが通例となっています。
上の「博物館」という単語がいい例で、ラオス語でもタイ語でも発音はピピタパンと同じなのですが、タイ語では最後に発音しない文字が付いています。
ラオス語: ພິພິທະພັນ
タイ語: พิพิธภัณฑ์
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また、両者の違いは文字数にも表れていて、タイ文字で42字(廃字は除く)ある子音字が、ラオス文字では27字(複合子音字を除く)しかありません。そのため、ひとつのラオス文字が複数のタイ文字に対応するというケースが出てくることになります。
ラオスを訪れる度に両文字の違いが気になっていたので、備忘録的な意味合いも兼ねて、今回ラオス文字とそれに対応するタイ文字の一覧を表にしてみました。コメント部分には、両言語で対応する文字の形を比較した際の相違点あるいは類似点をタイ文字を基準にした視点から一言記してあります。
まずは、子音字から。
ラオス文字 | タイ文字 | コメント |
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ກ | ก | ラオス文字では左下に丸が付くため、ポー・サンパウ(ภ)に誤読しやすい。 |
ຂ | ข | コー・カイ(ข)を横に90度倒したような感じ。 |
ຄ | ค, ฆ | コー・クワーイ(ค)に似ていないこともないが、左下にも丸がつくためトー・トゥング(ถ)にも誤読しやすい。 |
ງ | ง | 形はやや異なるが判別可能。 |
ຈ | จ | ほぼ同じ。 |
ສ | ส, ศ, ษ, ฉ | ソー・スア(ส)にほぼ同じ。 |
ຊ | ช, ซ, ฌ | チョー・チャーン(ช)を横に90度倒したような感じ。ラオス文字の発音はs(頭子音の場合)。 |
ຍ | ย, ญ | ヨー・ヤック(ย)にほぼ同じ。但し、ラオス文字では発音はny。 |
ດ | ด, ฎ, ฑ | ドー・デック(ด)にほぼ同じ。 |
ຕ | ต, ฏ | トー・タウ(ต)にほぼ同じ。 |
ຖ | ถ, ฐ | ラオス文字は右の棒がやや長く左上にも丸が付属するものの、トー・トゥング(ถ)に近い。 |
ທ | ท, ธ, ฒ, ฑ | トー・タハーン(ท)にほぼ同じ。 |
ນ | น, ณ | 形はノー・ネーン(น)に似ているがラオス文字では右下に丸がないため、モー・マー(ม)あるいはボー・バイマイ(บ)に誤読するケースも。 |
ບ | บ | ほぼ同じ。 |
ປ | ป | ほぼ同じ。 |
ຜ | ผ | ほぼ同じ。 |
ຝ | ฝ | ほぼ同じ。 |
ພ | พ, ภ | ポー・パーン(พ)とほぼ同じ。 |
ຟ | ฟ | ほぼ同じ。 |
ມ | ม | ラオス文字では左上に丸がないものの、判読は可能。 |
ຢ | ย | ほぼ同じ。ラオス文字では右の棒が短い場合、別の文字(ຍ)になることに注意。 |
ຣ | ร | やや形は異なるが判読可能。ラオス文字は外来語のみに使用。 |
ລ | ล | ほぼ同じ。 |
ວ | ว | 形は近いが、オー・アーン(อ)と誤読する可能性も。 |
ຫ | ห | 右上の丸の位置などがやや異なるが、判読可能。 |
ອ | อ | ほぼ同じ。 |
ຮ | ฮ | 異なる。タイ文字のロー・ルア(ร)の役目をし、形も近い。 |
次に母音字。タイ文字・ラオス文字共に、音節が母音で終わる場合と末子音が付く場合とで一部表記が変わるものがあります。
ラオス文字 | タイ文字 | コメント |
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◌ະ, ັ◌ | ◌ະ, ັ◌ | 短母音の[a]。同じ。 |
◌າ | ◌า | 長母音の[aː]。ほぼ同じ。 |
ິ◌ | ◌ิ | 短母音の[i]。ほぼ同じ。 |
ີ ◌ | ◌ี | 長母音の[iː]。ラオス文字では棒が横に、タイ文字では縦に伸びる。 |
ຶ◌ | ◌ ึ | 短母音の[ɯ]。ラオス文字では中に点が付く。 |
ື ◌ | ◌ื | 長母音の[ɯː]。ラオス文字では中の点と横棒が付く。 |
ຸ◌ | ◌ ุ | 短母音の[u]。同じ。 |
ູ◌ | ◌ู | 長母音の[uː]。同じ。 |
ເິ◌ | เ◌อะ, เ◌ิ- | 短母音の[ə]。 |
ເີ◌ | เ◌อ | 長母音の[əː]。 |
ເ◌ະ, ເັ◌- | เ◌ะ, เ◌็- | 短母音の[e]。末子音が無い場合はほぼ同じ。 |
ເ◌ | เ◌ | 長母音の[eː]。同じ。 |
ແ◌ະ, ແັ◌- | แ◌ะ, แ◌็- | 短母音の[ɛ]。末子音が無い場合はほぼ同じ。 |
ແ◌ | แ◌ | 長母音の[ɛː]。同じ。 |
ໂ◌ະ, ົ◌- | โ◌ะ, ◌- | 短母音の[o]。末子音が無い場合はほぼ同じ。 |
ໂ◌ | โ◌ | 長母音の[oː]。同じ。 |
ເ◌າະ, ັອ- | เ◌าะ, ◌็อ | 短母音の[ɔ]。末子音が無い場合はほぼ同じ。 |
◌ໍ , ◌ອ- | ◌อ | 長母音の[ɔː]。 |
このほか、ラオス文字には独特の複合子音字や二重母音字といったものもあります。どちらも使われる頻度は結構高く、例を挙げると、
ビエンチャン(ວຽງຈັນ): VientianeのVienにあたる部分で二重母音字ຽを使用。
ルアンパバーン(ຫຼວງພະບາງ): Luag PabangのLuagにあたる部分で複合子音字ຫຼを使用。
二重母音の方はタイ語とほぼ同じ形の文字を使う場合もあるものの、複合子音字の方はタイ文字の知識だけでは読めないため、これらについては文字と発音をセットにして覚えてしまうしかないです。
ラオス人とタイ人の比較で言うと、両国の文化的影響力の差がそのまま出ていて、ラオス人はテレビなどでタイ語・タイ文字に親しんでいるため総じてタイ文字に対する理解度が高く、一方、タイ人はラオス文字はあまり読めない(読む努力をしていない)というケースが多いですね。