アジアの麺料理、第16回目はカンボジアの国民食とも言えるノムバンチョック(នំបញ្ចុក)を紹介します。
タイのカノムチーンやラオスのカーオプン、あるいはベトナムのブンと同様の製法で作られる、米粉を原料とした麺料理です。ノム(នំ)というのはクメール語で「お菓子」の意味でタイ語のカノム(ขนม)と全く同じ。
お店や屋台で調理前のこの麺を目にすると、そのふにゃっとした質感から生麺っぽく感じてしまうのですが、米粉を水で溶いた後でそれをお湯にくぐらせ成形したものなので当然火が通っています。製麺法による分類に従うと、押しだし麺に分類することができます。
伝統的な製法は以下の動画を参考に。
クイティウなど他のカンボジアの米粉麺との大きな違いは米を水に漬けたあと発酵させる過程が入る点で、これはカノムチーン、カーオプン、ブンも同様。
この麺の上に好みの汁(スープ)をかけ、さらにハーブ類をたっぷりと載せてから頂きます。お店・屋台によって異なるものの、汁はだいたい2~4種類が用意されているのが一般的。
このコーナーで何度も言及しているように、東南アジアの麺料理のほとんどは18世紀末~19世紀になってから海路で中国南部から伝わったものです。ただこのノムバンチョックは、天秤棒で売り歩く伝統的なスタイルや祝い事や祭事などハレの日に村人総出で作ったりすることなど、他の麺料理との違いが目立ち、よりローカルに根差した、つまりかなり古い時代から食べられてきた料理ではないかと考えられています。
経済成長著しいプノンペンでも未だに天秤棒スタイルを見ることができる。
今回自分がノムバンチョックを食べるために訪れたのはプノンペン市内のヌードルツリー(The Noodle Tree)というお店。
ここのメニューにはタイでもポピュラーなやや辛口のナムヤー(魚を茹でた後で細かくほぐし、唐辛子など香辛料と一緒にさらに煮込んだもの)もありましたが、せっかくカンボジアにいるのでプラホック(魚から作った塩辛)ベースの汁(ソムロー・クマエ)を選択。
東南アジアにはタイだとプラーラーやガピ、ベトナムだとマムトム、インドネシアだとトラシなど魚やエビを発酵させた調味料がありますが、これらが好きな方であればプラホックも癖になること間違いなし。
カンボジアには言い伝えとして、その昔、当地での権力争いに敗れ中国に追放されたトンチャイ(ធនញ្ជ័យ)というクメール人が作り出したものこそがノムバンチョックだという伝説もあるのだそう。
関連リンク: Khmer noodles: The story of num banh chok
まあ伝説は伝説として、実際に誰が伝えたのか文献などもないため不明ですが、雲南など中国奥地から陸路でラオス、タイ、カンボジアなどに徐々に広まっていったと考えるのが自然ではないかと思います。
データ
料理名: ノムバンチョック (Num Banh Chok)
場所: カンボジア・プノンペンのSt 606
麺の原料: 米粉
麺の種類: 押しだし麺系列
店名: ヌードルツリー (The Noodle Tree)