タイ語とインドネシア語、サンスクリット由来の共通単語

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東南アジアの言語には古代インドで使用されていたサンスクリット及びパーリ語由来の借用語が数多く残っていて、言語系統的には繋がりの薄い言葉の間でもしばしば共通する語彙を見つけることができます。

例えば、「言語」を意味する単語は、マレーシアやインドネシアではバハサ(bahasa)、ミャンマーではバーター(ဘာသာ) タイやラオスではパーサー(ภาษา, ພາສາ)、カンボジアではピアサー(ភាសា)というように全て同源。

今回はタイ語とインドネシア語に注目し、サンスクリット(パーリ語を含む)由来の借用語のうち両言語で共通する単語をピックアップ。中にはนาม(ナーム)とnamaのようにさらに上位の印欧祖語と言うべき単語もあるものの、それらを含め代表的なものを50語程度取り上げてみました。



なお、便宜的に発音をカタカナ表記してありますが、タイ語の末子音(音節最後の子音)ははっきりと音には出さないため、สมุทร(samut)であればtの前で止める感じでサムッ(ト)と発音するとより近い音になると思います。以下、日本語、タイ語、インドネシア語の順番で。

言語 ภาษา(パーサー) bahasa(バハサ)
海洋 สมุทร(サムット) samudra(サムドラ)
人間、人類 มนุษย์(マヌット) manusia(マヌシア)
友情、パートナー มิตร(ミット) mitra(ミトラ)
都市、国家 นคร(ナコーン) negara(ナガラ)
都市 บุรี(ブリー) puri(プリ)
土地 ภูมิ(プーム) bumi(ブミ)
偉大な、大きな มหา(マハ―) maha(マハ)
 ราชา(ラーチャー) raja(ラジャ)
女王 ราชินี(ラーチニー) rani(ラニ)
獅子 สิงห์(シン) singa(シンガ)
幸福  สุข(スック) suka(スカ)
苦しみ、悲しみ ทุกข์(トゥック) duka(ドゥカ)
戦い ยุทธ(ユット) yudha(ユダ)
勝利  ชัย(チャイ) jaya(ジャヤ)
  จันทร์(チャン) candra(チャンドラ)
 อากาศ(アーカート) angkasa(アンカサ)
生命 ชีวา(チーワー) jiwa(ジワ)
 เทวดา(テーワダー) dewata(デワタ)
全能 วิเศษ(ウィセート) wisesa(ウィセサ)
無限 อนันต์(アナン) ananta(アナンタ)
献身、忠誠 ภักดี(パックディー) bakti(バクティ)
精神、心 จิต(チット) cita(チタ)
描写、絵 จิตร(チット) citra(チトラ)
 สระ(サ) suara(スアラ)
 รส(ロット) rasa(ラサ)
 เวลา(ウェーラー) bila(ビラ)
姿、外観 รูป(ループ) rupa(ルパ)
動物  สัตว์(サット) satwa, sato(サタワ)
  คชา(カチャー) gaja(ガジャ)
ナーガ นาค(ナーク) naga(ナガ)
ガルーダ ครุฑ(クルッ) garuda(ガルダ)
仏堂、寺院 วิหาร(ウィハーン) wiharaまたはvihara(ウィハラ)
 ศัตรู(サットルー) seteru(サタル)
 พิษ(ピット) bisa(ビサ)
地獄(奈落) นรก(ナロック) neraka(ナラカ)
滅びる วินาศまたはพินาศ(ウィナートまたはピナート) binasa(ビナサ)
  อุดรまたはอุตร(ウドンまたはウタラ) utara(ウタラ)
単語  ศัพท์(サップ) sabda(サブダ)
文字 อักษร(アクソーン) aksara(アクサラ)
1、1番目の  เอก(エーク) eka(エカ)
最初の ประถมまたはปฐม(プラトム、パトム) pertama(プルタマ)
先生 ครู(クルー) guru(グル)
生徒 ศิษย์(シット) siswa(シスワ)
仕事 การย์(カーン) karyaまたはkerja(カルヤまたはクルジャ)
布施 ทาน(ターン) dana(ダナ)
 สามี(サーミ―) suami(スアミ)
婦人 สตรี(サトリ―) istri(イストリ)
名前 นาม(ナーム) nama(ナマ)
車輪 จักร(チャク) cakra(チャクラ)
 กุญแจ(クンチェー) kunci(クンチ)
光る、映す ฉาย(チャーイ) cahaya(チャーヤ)
 วรรณまたはวรรณะ(ワンまたはワンナ) warna(ワルナ) 

サンクリットの同一単語からの借用語がタイとインドネシアでそれぞれ受容された後に、時代を経て意味が変化したケースも多く、例えば、サンスクリットで「果実」を意味したphalaは、インドネシアではpala(パラ)となりナツメグを意味。一方、タイではผล(ポン)で果実あるいは結果という意味で使われています。その他にも、

บัณฑิต(バンディット, 卒業)⇔ pendeta(ペンデタ, 祭司)
บุญ(ブン, 功徳)⇔ punya(プニャ, 所有する)
ลักษณะ(ラクサナ, 性質)⇔ laksana(ラクサナ, ~と同じ、行為)
ศูนย์(スーン, ゼロ)⇔ sunyi(スンイ, 静かな)

といった感じ。両言語におけるサンスクリット借用語の意味や形の変化については以下が詳しいです(タイ語とジャワ語の比較)。
The meanings of sanskrit loanwords in Thai and Javanese languages

その他参照
インドネシア語におけるサンスクリットからの借用語
sanskrit loan words in indonesian
List of Indic loanwords in Indonesian
ジャワ語及びマレー語とセブアノ語及びビサヤ語との比較
THE SANSKRIT LOAN-WORDS IN THE CEBUANO-BISAYAN LANGUAGE
バリ語におけるサンスクリット系の語彙
バリ語におけるサンスクリット系の語彙について(序) -ムラユ語、ジャワ語などとの比較もまじえて-