アジアの麺料理 第18回 イエンタフォー

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イエンタフォーあるいはイェンタフォー、漢字で書けば釀豆腐。マレーシアやシンガポールでヨントーフ(Yong Tau Foo)と呼ばれるものと同源。

中国語で釀(酿)は「醸す」という意味以外に、中をくり抜いた食材に具を詰めて蒸す、油で焼くという意味があり、元々は豆腐にひき肉を詰め蒸し焼きにした客家由来の料理。一説には華南に移り住んだ客家の人々が当地で入手が難しい小麦粉の代わりに豆腐で肉を包んだのが始まりとされています。

客家料理で一般的な紅糟(もち米に紅麹を加えて酒を作った時にできる酒粕)を調味料として使うことでスープは赤色に。現在のタイでは腐乳(タイ語ではเต้าหู้ยี้、タウフーイー)やトマトソースなどで代用するのが一般的。さらに、麺や他の具材を加えて食すというのがオリジナルの釀豆腐との大きな違いです。

正式にはクイッティアオ・イェンタフォー(ก๋วยเตี๋ยวเย็นตาโฟ)と言うべきですが、今では単にイェンタフォーと言えば麺料理そのものを指すようになり、主役であるはずの豆腐すら使用しない店も。あえて麺無しが欲しい場合はガオラオ・イェンタフォー(เกาเหลาเย็นตาโฟ)と言えば伝わります。

ただ、上述のように起源を辿れば釀豆腐とは「豆腐の肉詰め」のことであり、ここは源流である客家料理に思いを馳せ、イェンタフォーを食す時には少なくとも具材に豆腐の肉詰めが入ったものを選びたいというのが個人的な思いです。

バンコク客家会館前に出る屋台の釀豆腐
バンコク客家会館前に出る屋台の釀豆腐

ではどういう店で食べればいいのか?おすすめは、タイ人が通常クァイティアオ・ケ(ก๋วยเตี๊ยวแคะ)と呼ぶ麺料理を出す食堂や屋台。

ケ(แคะ)とは客家のことで、こういう店は一見普通のクァイティアオ屋と大差ないですが、よく見ると自家製の豆腐の肉詰めを扱っていたり、また代表的な客家麵である老鼠粄(米篩目)を置いていたりするのが特徴。老鼠粄というのはネズミの尻尾のように短く先の尖った麺で、タイでは潮州語由来でギアムイー(เกี๊ยมอี๋、尖米丸)と呼ばれています。

そういった店の一つ、「ヨンタオフー」
そういった店の一つ、「ヨンタオフー」。場所
揚げ豆腐の肉詰めが入ったイェンタフォー
揚げ豆腐の肉詰めが入ったイェンタフォー

クイッティアオ(粿條)や魚のつみれ(魚丸)といった潮州由来の食材の中に控え目に入っている釀豆腐。タイにおいて圧倒的多数を占める潮州人とマイノリティーの客家人との関係性の縮図を一杯の器の中に見ることができる、そんな麺料理がタイのイェンタフォーなのではないでしょうか。

なお、シンガポールの「ヨンタオフー」の変遷については以下の動画を参考に。客家の伝統的肉詰め豆腐から魚肉を詰めた豆腐が誕生し、さらに現在の練り物全般を総称するおでん風の料理へとこちらも時代と共に変化している様子がわかります。